エッセイスト(随筆家)は、文筆業の中でも特に人気が高い職業の一つです。
著名なエッセイストともなると、コメンテーターとしてテレビやラジオに出演するなど、どことなく華やかなイメージがありますよね。
実は、エッセイストになること自体はそう難しいことではありません。
というのも、ある人がエッセイストであることを証明するための資格や書類のようなものは存在しないからです。
極端に言えば、エッセイを書き「私はエッセイストです」と名乗りさえすれば、その瞬間からあなたは憧れのエッセイストになることができます。
ただし、執筆だけで生活できるほど収入を得られるかどうかとなると、話は変わります。
エッセイストを職業としてのレベルに高めるにはどうしたら良いのでしょうか。
本コラムではその秘訣を3つの要素にまとめました。
これからエッセイを書き始める方も、すでに書いていてさらなるレベルアップを目指している方も、ぜひご一読ください。
エッセイストとして人気を獲得するための第一の武器が「専門性」です。
例えば、恐らく日本で最も有名であろうコピーライターの糸井重里氏は、エッセイ作品を多く刊行しています。
『もののけ姫』の「生きろ。」や『ゲド戦記』の「見えぬものこそ。」など、印象的なコピーを数多く発表してきた糸井氏の文章であれば、ぜひ読みたいと考える読者が多いのも納得ですよね。
糸井氏のエッセイが人気を集めているのは、言わば「言葉の専門家」の考えが知りたいと多くの方が熱望しているからなのです。
この例を聞いて、自分にはそこまでの経歴はない、と尻込みしてしまった人もいらっしゃるかもしれません。
しかし、賞を貰ったり公の場で活躍していなくとも、高い専門性をもった方は山ほどいらっしゃいます。
演奏の初めの一音を耳にしただけで、作曲者と曲名はもちろん指揮者と演奏年、演奏されたホールまで答えられるクラシックマニアの方。
古今東西のアイドルを愛好し、マイナーなご当地アイドルまで完全網羅している熱狂的なファンの方。
誰しもに「これだけは譲れない」と思えるものがあるはずで、そこにこそ高い専門性が備わっています。
その意味で、知識の狭さ=ニッチさは強力な武器になります。
あなたからしか聞くことのできない情報があると読者に思わせることができれば、自然と注目は集まることでしょう。
第二の武器は「徹底性」です。
一見するとありふれたテーマであっても、もう一歩踏み込んでみることで魅力あふれる題材に生まれ変わります。
「嘘」というテーマについて「嘘をついてはいけない」と当たり前のことを書いてもつまらないですよね。
しかし、そこからさらに一歩踏み込んで、例えば「嘘だと分かっていながら、小説を読んで感動できるのはなぜか」と考えを進めることもできます。
こうした考えは、頭から「嘘はよくない」と決めつけているときにも、小説を熱心に読んでいるときにも恐らく思い浮かばない考えです。
だからこそ、読者に「そういえばそうだ」と思わせるきらめきを感じさせるテーマになっています。
あるテーマについて、初めのうちは当たり前だと思われていることを書き出してみましょう。
5個、10個、20個を超えたあたりで、自分でも思いもよらなかった着眼点に辿り着くかもしれません。
ありふれたテーマをとことん掘り下げられる徹底性もまた、独自の視点としてあなたの味方になってくれることでしょう。
誰が読んでもわかりやすい文章を書くことは大切です。
一方で、その点にばかりこだわっていると、新鮮味に欠けた文章になってしまうかもしれません。
その著者にしかない魅力は、書かれている内容だけでなく、その書き方にも宿ります。
例えば、作家兼ミュージシャンの町田康氏のエッセイ『猫にかまけて』では、猫の怒り方について次のようなユーモラスな文章が書かれています。
しかもその方法たるやいたって直截で、人間であれば、「なにメンチきっとんねん、こら」などと一応、言語で因縁をつけるのであるが、ナナの場合そんなことはしない、いきなり目を三角にして、両手両脚を広げ、真っ赤な口を開けて鬼のような形相で相手につかみかかっていくのである。
地の文のなかに、町田氏が生まれ育った大阪府堺市の言葉が混じることで、言葉に瑞々しいリズムが生まれているのがお分かりかと思います。
エッセイを書くうえで、方言の存在はスパイスになりえます。
その人が暮らした土地、そしてその人自身に根付いた言葉は、他のエッセイ作品にはなかなか見られない独特の響きをもって、読者の耳をくすぐることでしょう。
方言だけでなく、自分の話し方のクセやテンポ感を意識することで、ぜひ独自の文体の開発に挑戦してみましょう。
最後に本コラムの内容をおさらいしましょう。
・自分だけが知っている専門知識を活かしたエッセイを書こう
・人より一歩先へ踏み込んで考えたエッセイを書こう
・誰にも真似のできない新しい文体でエッセイを書こう
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