(『奪われた若き命 戦犯刑死した学徒兵、木村久夫の一生』の著者によるコラムです)
2015年(平成27年)11月にはじめての自著が出版されてから、2年以上が過ぎた。この時期に全く思いがけず、この書が幻冬舎ルネッサンス新社から、文庫本として出版されることになった。その喜びの中で、私はあらためて、長い年月の執筆を助けてくれた多くの方々から与えていただいた資料を見つめている。
最初からともにあった資料は、『きけわだつみのこえ』(岩波文庫)と、はじめて佐井寺の木村家を訪れたときいただいた、『或る遺書について』の小冊子である。これは木村久夫さんの高知高校時代の恩師、塩尻公明先生が1948年(昭和48)月刊誌『新潮』6月号に掲載された文章の抜粋である。この2冊を入れておいた書類袋は、四方八方がすり切れてしまった。何度も出し入れした証なのだ。この袋は木村家との交流の長さを思わせる。
木村さんを考える上で真っ先に脳裏に浮かぶのが、多くの経済学書が含まれる書籍である。書籍の見返しには必ずといえるほど、「昭和〇年〇月〇日 高知高等学校 木村久夫」と書かれている。これは購入日であるが、見返しにはそのほかに、読後感が書かれている。これまで木村さんについて書かれている内容は、イギリスの戦犯裁判と高知高校時代の学校生活等である。必修教科の欠席が多く留年になったことは広く知られている。私が木村さんの書籍で見返しに触れて思ったことは、「このような読後感があることをこそ、多くの人に知らせたい。」ということだった。
木村さんの書籍とかかわって、どうしても知りたかったこと、それは「池上書店」だった。本の多くにこのラベルがはってあったからである。私の本の多くにこのラベルがはってあったからである。私の願いは、2007年(平成19)に実現した。3度目の高知訪問のとき、池上龍男さん夫妻から、木村久夫さんが『資本論』等を求めた当時の店主で龍男さんの父隆郎さんについてくわしく知ることができたのである。このとき、当時の書店と店内を示す写真もいただいた。それを池上書店の章に取り入れられたことは、それだけで店内の木村さんを想像することができる。木村さんを語る上で、現在高知大学の図書館に保管されている「木村文庫」の書籍は抜くことができない。私は文庫の前に立ったときの感動を忘れることができない。同時に書籍の見返しに「池上書店」のラベルが多くあったことが、強く心に残っている。
書架に並んでいるこれらすべては、目にするたび、胸が熱くなる。木村久夫さんと共にあった20数年が、思い出されるからである。
■著者紹介
『奪われた若き命 戦犯刑死した学徒兵、木村久夫の一生』(山口紀美子・著)
1941年、日本は大東亜戦争(太平洋戦争)に突入する。日本では多くの国民が徴兵され、戦場に向かうことになった。そんな時代に行われた学徒出陣で徴兵された若者たちの中に、木村久夫という一人の青年がいた。
終戦後、戦地であったカーニコバル島の島民殺害事件に関わった人物として、木村久夫さんはイギリスの戦犯裁判にかけられ、死刑を言い渡された。その時木村さんが書いた遺書は、学徒兵の遺書をまとめた『きけわだつみのこえ』に収録されたことでよく知られている。
その『きけわだつみのこえ』を読み、木村久夫という個人に心惹かれた著者は、木村久夫さんの妹、孝子さんと何年も文通を重ね、木村さんのことをさらに深く知っていった。その後、孝子さん夫妻と実際に何度も会い取材を重ねていく中で、著者は木村久夫さんが歩んできた人生の足跡を辿っていくことになる。
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