創作において、先人たちの知恵に学ぶことは非常に有益です。
優れた小説家のなかには、古典から着想や見識を獲得している方も少なくありません。
本コラムではそのなかでも伝統的な構成・章立ての手法として知られる「序破急」をご紹介します。
もともとは雅楽を構成する三楽章のことを指す言葉で、序・破・急のそれぞれが「拍子にとらわれない自由な演奏」「拍子に合わせたややゆるやかなテンポでの演奏」「拍子に合わせた早いテンポの演奏」を指しています。
その後、能や浄瑠璃といった伝統芸能の構成にも導入されるようになりました。
2021年3月8日に大団円を迎えた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの各話名も、序・破・Qとこの手法をもじった名前になっていましたね。
古くから親しまれてきた一方、今なお多くの創作物で見受けられる、現役の構成テクニックであると言えるでしょう。
本コラムでは ①そもそも序破急とは何か ②「序」で書くべきこと ③「急」で書くべきこと の三つをご説明します。
これから作品を執筆される方は、ぜひこの「序破急」を意識していただければと思います。
「序破急」という構成の分類が、雅楽から能や浄瑠璃に移植されたものであることは先ほどご紹介しました。
では、現代の文学作品にも当てはまるような形で定式化すると、序・破・急はそれぞれ何に該当するのでしょうか。
概ね以下のとおりに分類できます。
文章量と盛り込まれる内容ともに「破」が自然と最も多くなります。
著者としても「破」は力を入れたいところですが、一方でそのことと引き換えに「序」と「急」がおろそかになってしまうことも多いのではないでしょうか。
しかもこれらをおろそかにすることで、力を注いでいたはずの「破」の部分さえも、結果的には台無しにしてしまいかねないのです。
そこで以下では、あえて「序」と「急」に的を絞り、それぞれ小説篇と実用書篇で2種類の注意点を解説いたします。
まず「序」についてご説明します。
「序」は導入ならびに問題設定のための章でした。
小説と実用書、それぞれ「序」では何に注意すべきなのでしょうか。
小説の「序」
いわゆる「大衆小説」や「エンタメ作品」と呼ばれる作品において顕著ですが、小説は主人公が何らかの目的を達成する過程を描いた記録と言い換えることができます。
主人公の目的に読者がどれほど共感できるかということは、主人公の活躍に読者がどれほど夢中になることができるかと相関関係にあります。
主人公は必死になっているがいまいち感情移入できないという場合、この「目的の共有」がおろそかになっているケースが考えられます。
まさにこの「目的の共有」のために存在するのが、小説作品の「序」です。
主人公がどのような経緯でその目的を掲げるに至ったのか、読者を説き伏せるつもりでプレゼンしましょう。
例えば「魔王に村を焼かれ、亡き両親のかたき討ちのため冒険の旅に出る」という導入はその典型です。
主人公と両親の絆がどれほど深く、また魔王の仕打ちがどれほど残虐であったかを丹念に解説することで、主人公を見る読者の目は大きく変わります。
逆に言えば、どれほど華麗で大胆な活躍を主人公が演じたとしても、目的意識を「序」で共有できていなければ駄作になってしまう恐れがあるのです。
実用書の「序」
実用書の場合、小説作品でも見受けられた「目的の共有」という機能はより明白です。
その書籍を通じて何を明らかにするのか、あるいは何を達成するのかを、読者に明確なかたちでアピールしましょう。
例えばダイエット本であれば、目的は当然「痩せること」であり、ビジネス書であれば「稼ぐこと」が目的になります(昨今流行している「伝え方」本も、行き着く先は会社の収益アップのはずです)。
実用書を購入する読者は、効果を出すためなら何でもする努力家ばかりとは限りません。
むしろ大半の読者は、楽をして結果を出したいと考えています。
だからこそ、実用書の「序」では目的達成に至る大まかな方法もあらかじめ予告しておくべきです。
「痩せます、しかも〇〇を食べるだけで」「稼げます、しかも〇〇を変えるだけで」というふうに、方法の手軽さについても最初に説明しておきましょう。
次に「急」についてご説明します。
「急」は物語の結末であり、全体総括のための章でした。
小説の「急」と実用書の「急」、それぞれ気を付けるべきこととは何でしょうか。
小説の「急」
上で、小説作品は主人公が目的を達成するまでの過程を描いた記録だと述べました。
したがって「急」は、主人公による目的の達成ならびに、目的を達成したことで主人公がどう変化したかを描く箇所ということになります。
先述の例を踏まえて詳しく説明しましょう。
故郷の村を焼かれた主人公は、魔王を見事討伐することで「両親のかたき討ち」という当初の目的を果たしました。
これにより、主人公にはどのような変化が起きたでしょうか。
魔王がもたらした災厄が(親子の)絆を否定するものであったと考えると、主人公が亡き両親に変わって魔王を破ったことは、その絆の回復であったと考えることができます。
奪われた絆や自らの居場所を、冒険を通じて得た仲間たちとの新たな絆のなかに見出したとなれば、主人公にはポジティブな変化が生じたことになるでしょう。
したがって、例えば仲間と和気藹々と語らう主人公の姿をエピローグで描くことで、物語は納得いく形で完結することになるはずです。
「序」でも同様のことを述べましたが、いくら本編である「破」を濃密に描いたとしても、作品全体のまとめである「急」をおろそかにしては台無しになってしまいます。
主人公はどう変化・成長したのか書くことで、読者は物語を完全に消化しきることができるのです。
実用書の「急」
対して実用書の場合、作品の目的が達成されるかどうかは読者の行動に委ねられています。
痩せるための本・稼ぐための本をいくら読んでも、読者がそこに書かれているノウハウを実行しなければ何もかも無駄になってしまいます。
そのため実用書の「急」で書くべきは、それまで論じたことの振り返り、言ってしまえば読者への「念押し」です。
特に長い書籍の場合、読者も読むのに時間がかかりますから、書籍の冒頭に書いてあったことは記憶が薄れている可能性もあります。
それではせっかくのレクチャーが無駄になってしまいますよね。
実用書が「実用的」であるためには、書籍全体を振り返ることで、そこで解説した内容を読者にすりこむ必要があります。
結びにあたる「急」がわかりやすくまとめられていれば、読者も「そうだそうだ、早速今からやってみよう」と考えるかもしれません。
最後に、本コラムでご紹介した内容をおさらいしましょう。
・伝統的な構成テクニックである「序破急」は、それぞれ「導入、問題設定」「展開、問題解決」「結末、全体総括」に該当しており、実は序・急が重要である。
・「序」では作品の目的を読者にアピールし、共感してもらったり興味を持ってもらったりする。
・「急」では作品全体を総括し、物語の場合は主人公の成長、実用書の場合は全体の振り返りを行うのが一般的である。
「破」ばかりに力を入れるのではなく、強力なサポーターとして「序」と「急」をうまく使いこなすことで、読者の心を鷲掴みにしましょう。
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