2021年7月14日、第165回芥川賞・直木賞作品が決定しました。
芥川賞は石沢麻依氏の「貝に続く場所にて」(『群像』2021年6月号初出)と李琴峰氏の「彼岸花が咲く島」(『文學界』2021年3月号初出)の2作品が選ばれました。
直木賞は佐藤究氏の『テスカトリポカ』(KADOKAWA、2021年2月9日刊行)と、澤田瞳子氏の『星落ちて、なお』(文藝春秋、2021年5月12日刊行)が選ばれました。
それぞれの賞に2作品が輝いたのは実に10年ぶりということで、豊作の年であったことが窺えます。
受賞作が発表されるたびメディアで話題となり、書店でも大々的にアピールされる二つの賞、そもそもどのような賞かご存じでしょうか。
本コラムでは、芥川賞と直木賞について解説します。
「芥川賞」という名前で親しまれていますが、正式名称は「芥川龍之介賞」といいます。
芥川が逝去してから7年後の1934年、『恩讐の彼方に』や『真珠夫人』などの代表作で知られる小説家の菊池寛が、後述する直木三十五と芥川の名を冠した新人賞の構想を『文藝春秋』4月号で発表しました。
芥川は『文藝春秋』の毎号巻頭に「侏儒の言葉」という随筆を寄稿しており、同誌の創刊者である菊池としては恩義の深い作家でした。
そんな芥川賞の選考対象となるには、いくつかの条件があります。
①純文学の短編小説であること
「純文学」とはごく簡単に言ってしまえば「芸術性を重視した小説」です(「純文学とは何か」という問題は極めて奥深いため、本コラムでは立ち入りません)。
何となく近寄りがたい印象を抱かれる方もいらっしゃるかもしれない純文学。
しかし例えば、第161回芥川賞に輝いた今村夏子氏の『むらさきのスカートの女』(朝日新聞出版、2019年刊行)は、選考委員の島田雅彦氏いわく「平易な文章に、寓話的なストーリー運びの巧みさ、キャラクター設定の明快さ」が魅力であり、エンターテインメント小説としても充分楽しめる作品です。
宇佐見りん氏が弱冠21歳で受賞するなど、近年では若手作家の活躍も目覚ましい芥川賞、苦手意識があった方もぜひこの機会に読まれるといいかもしれません。
②著者が新人作家であること(?)
こちらの条件に疑問符をつけたのは、ここでいう「新人作家」の明確な定義が存在せず、ほぼ名目上の条件となっているからです。
ちなみに、年齢もここでは全く関係ありません。
第148回芥川賞を受賞した黒田夏子氏は当時75歳9か月の「新人作家」でした。
デビューも受賞も、いつからでも遅くはないということですね。
「直木賞」の正式名称は「直木三十五賞」といいます。
すでに先ほどご紹介したとおり、1934年2月に逝去した直木五十六の名を冠して菊池寛が創設しました。
芥川と同様、直木もまた『文藝春秋』に寄稿していた貢献者でした。
そんな直木賞の対象になる条件は以下のとおりです。
①大衆小説の短編および長編であること
「大衆小説」とは、いわゆるエンターテインメント小説のことです。
例えば幻冬舎の刊行書籍からは、過去に3作品が直木賞を受賞しました。
・第137回 松井今朝子『吉原手引草』(2007年3月刊行)
・第150回 姫野カオルコ『昭和の犬』(2013年9月刊行)
・第156回 恩田陸『蜜蜂と遠雷』(2016年9月刊行)
『蜜蜂と遠雷』は2019年10月に映画化もされ、多くの反響を呼びました。
先ほど「純文学」についてご説明しましたが、もちろん純文学に比べて大衆小説の方が芸術性に劣るわけでもなく、純文学の方が大衆小説に比べて娯楽性に劣るわけではありません。
その年の芥川賞受賞作と直木賞受賞作を読み比べて、純文学と大衆小説の違いをぜひご自身で感じてみてはいかがでしょうか。
②著者が新人~中堅作家であること(?)
こちらの条件も芥川賞と同様、ほぼ名目上の条件となっています。
実際のところは新人から中堅、さらにはベテランまで幅広い受賞者が存在します。
その意味では、かなり自由度の高い文学賞と言えるかもしれません。
中堅作家の代表作が読みたい方は直木賞を、これから活躍していくであろう新たな才能が気になる方は芥川賞を読むべきかもしれませんね。
最後に、本コラムでご紹介した内容をまとめます。
・芥川賞/直木賞はどちらも、菊池寛が1934年に発案した文学賞であり、菊池が創刊した『文藝春秋』に貢献した二人の作家の名が冠せられている。
・芥川賞は純文学かつ短編の作品が対象。「新人作家」という規定はほぼ名目上のもの。
・直木賞は大衆小説の作品が対象(長編でも可)。芥川賞同様、「新人作家」という規定はほぼ名目上のもの。
二つの賞の違いを踏まえて、自分が気になった作品をぜひ手に取って読んでみましょう。
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