小説作品において「描写」のもつ役割は非常に重要です。
人物が語るわけでもなく、派手な事件が起きるわけでもないのに、何かがその場の空気として伝わってくる──優れた作品にはそういった深みが潜んでいます。
冒頭からこのように言うと、何か特別な感性が必要であったり、並外れた文才がなければ描写はできないと思われるかもしれません。
しかし、この考えは全くの誤りです。
描写の基礎スキルは努力次第で誰にでも身に付けることが可能です。
少なくとも、読者から「何が起きているのか分からなかった」「話についていけなくなった」と言われてしまうリスクは抑えられるはずです。
今回は、描写力を向上させる術をご紹介します。
写真を例に実践してみましょう。
まずは以下の写真に収められた場面を、自分なりの言葉で描写してみてください。
書き終えたら、写真の続きの文章を読んでください。
いかがでしょう、誰が読んでもイメージの浮かぶ場面描写ができたでしょうか。
執筆に不慣れな方は、納得のいかない結果になってしまったかもしれません。
では今度は描写する前に、以下の3項目に絞って、簡単なメモを取ってみましょう。
・人
・物
・環境
これらは場面の情報を構成する主要な三要素でもあります。
「ここには誰がいるのか」「この場面はどこの話なのか」──これらが曖昧になると、読者はたちまち置いてけぼりになってしまいます。
例えば次のようなメモができあがることでしょう。
・人
二人の子どもがいる。片方は赤い服を着た女の子で、もう片方は白い服の男の子。男の子はこちらを向いている。
・物
三脚があり、そこにカメラがセットされている。
・環境
たんぽぽだろうか、黄色い花が一面に咲いている。二人の子どもの向こうには、木々が立ち並んでいるのが見える。
このようなことが書き出せるのではないでしょうか。
実際に執筆をする際には、言わば皆さまの頭の中にある風景に対してこの作業を行うことになります。
こうすることで、自分が細かなところまで情景やその場の雰囲気をイメージできているか、チェックすることができます。
これが、場面描写の土台となります。
現時点で用意できているのは、言わばデータの寄せ集めにすぎません。
ここから小説作品の「描写」と呼ぶに堪える作品にするには、主人公にとってその場面がもつ意味を考えなくてはなりません。
最初の回答をもとに例を書いてみましょう。
私たち家族が映画を鑑賞していると、娘が「私もこれになりたい!」と劇中の女優を指さした。少し大人びた赤いドレスに着替えてすっかりスター気取りの彼女は、自分の宣材写真を撮るよう兄を大急ぎで連れ出し、我が家からほど近くのたんぽぽ畑にやってきた。私と妻も監督・助監督として同行する。覚束ない手つきでカメラを構えた息子が、助けを求めてこちらを見てくるので、妻と二人思わず笑ってしまった。
上記の文章には「少し大人びた」「覚束ない手つき」などの描写が加わっています。
それぞれ「背伸びした娘の微笑ましさ、父親としてもっている愛情」「妹のために精一杯付き合ってやる兄の優しさ、ユーモラスで可愛らしいしぐさ」の表現になっています。
少しわがままでおませな妹と、それに逆らえない心優しい兄、二人の子どものやりとりを温かく見守る両親という家族像が、細かな表現のなかにもしっかり反映できています。
もちろん、例として挙げた写真から感じ取ったストーリーやイメージは皆さまそれぞれで違っているでしょうから、上で示した例と全く同じである必要はありません。
重要なのは、「子どもがいて、カメラがあって……」のような無味乾燥なデータの寄せ集めになっていないかどうか、ということです。
ストーリーやキャラクターの個性を劇的に引き立てる隠し味のスパイス、それが描写。
ぜひ皆さまも使いこなして、作品をより魅力的に仕上げてみましょう。
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