新人賞の応募原稿がようやく完成したのに、規定の文字制限を優に超えてしまい、困り果てたことがある方は多いのではないでしょうか。
原稿の規定字数違反に限らず、知人へのLINEや業務上のメールにおいても、文字数の多い文章はそれだけで読むハードルを高くしてしまいます。
本コラムでは、余分な箇所を削り長い文章をコンパクトにする「文章ダイエット」の方法をご紹介します。
「私はこう言った」「友人は〇〇を始めた」「太郎は〇〇だと考える」のように、文章にいちいち主語を入れていると、字数がかさんでいきます。
主語はどんどん削りましょう。
主語が無いと誰が何をしたかが分かりにくくなるのではないか、と思うかもしれません。
しかし実際には、全く問題はありません。
次の文章は、宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』のある場面です。
ジョバンニがこらえ兼ねて云いました。
「僕たちと一緒に乗って行こう。僕たちどこまでだって行ける切符持ってるんだ。」
「だけどあたしたちもうここで降りなけぁいけないのよ。ここ天上へ行くとこなんだから。」女の子がさびしそうに云いました。
「天上へなんか行かなくたっていいじゃないか。ぼくたちここで天上よりももっといいとこをこさえなけぁいけないって僕の先生が云ったよ。」
「だっておっ母さんも行ってらっしゃるしそれに神さまが仰っしゃるんだわ。」
「そんな神さまうその神さまだい。」
「あなたの神さまうその神さまよ。」
「そうじゃないよ。」
「ジョバンニが~云いました」「女の子が~云いました」以降は、会話文だけで物語が進行していきます。
現在話しているのはジョバンニと女の子の二人だけであり、会話は基本的に交互に行われるものだという前提や、女の子の「だわ」「よ」といった語尾によって、誰がどちらの言葉を話しているのかは一目瞭然です。
また、主語を省いたことで、会話がテンポ良く進んでいくのも分かりますね。
いちいち「ジョバンニが」「女の子が」と補足されては、読む側もうんざりしてしまいます。
このように、読者に共有されている前提や、登場人物の話しぶりをうまく利用することで、主語は省略することができるのです。
長すぎる文をよく見てみると、いくつかの短い文が繋がっていることが多いです。
文を繋げる際には「ならば」「でも」「けれども」「だが」「ので」などの言葉が使われます。
これらの言葉を頻繁に使ってしまう方は、読者にとって分かりにくい、長い一文を書いてしまっている危険性があります。
次の文を見てみましょう。
私の文はつい長くなりがちなので、文を簡潔にまとめたいと思っているけれど、上手にできない。
1文に「ので」「けれど」の二つが入っていて、少し読みにくいですね。
この言葉を使わずに書き直してみましょう。
長くなりがちな文を簡潔にまとめたい。しかし上手にできない。
「ので」「けれど」を削ったことで一気にすっきりしましたね。
これは補足情報ですが、先ほどご紹介した「〇〇は△△した」文を回避するテクニックを応用することで、「私の」という表現も削っています。
エッセイのような作品であれば、作中の考えは基本的に全て筆者のものなので、わざわざ「私は」と書く必要のないケースも多くあります。
自分の書いた文を見直すときには、短い文に分けることができないかを考えてみましょう。
ここまでは、表現を工夫して文字数を少なくする「ダイエット」方法をご紹介しました。
しかし、これらの方法で実現できるのは多くても10文字前後の削減です。
一気により多くの字数を減らすには、特定の内容を丸々カットする必要があります。
カットを真っ先に検討するべきなのが、自慢話や苦労話の類です。
「本書では楽をしてお金が儲けられる方法をご紹介するが、そもそも私がこの考えに至ったのには、苦節数十年、長きに亘る闘いの日々があり~」などと切り出されては、本題に行き着くまでに読者が待ちくたびれてしまいます。
「そんな話はいいから早くお金が儲けられる方法を教えろ」と読み飛ばされたり、最悪の場合そこで本を置かれてしまうなんてことになりかねません。
執筆の陰に隠れたエピソードは、書籍の刊行後、新聞や雑誌で著者インタビューされたときのために、大切にとっておきましょう。
本コラムでご紹介した内容を、最後におさらいしましょう。
・「〇〇が△△をしました」とはいちいち書かず、省略する。
・長い一文は「ので」「だが」等を削って、短い複数の文に区切る。
・苦労話を読者は読まない。綺麗さっぱり削ってしまおう。
全く同じ内容を伝えるなら、手短かに伝えた方がいいのは当たり前。
読者の目線に立って文章を書くことを忘れないようにしましょう。
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