コラム

時代の異端者たち「ビート・ジェネレーション」とは?**

 

「ビート・ジェネレーション」と呼ばれるアメリカの文学運動を、皆さんはご存知でしょうか。

美術・音楽をふくむ数々の文化や、政治運動にも大きな影響を与えた活動、そしてそれを主導した作家集団のことを指す言葉です。

このように書くと、さぞ高尚な活動であるかのようですが、その実態は極めて過激で、一言で表してしまえば「めちゃくちゃ」なものでした。

彼らはなぜ挑発的な姿勢を貫いたのか、そしてその姿勢はどのように世界を変えていったのか。

本コラムではビート・ジェネレーションの思想や、彼らが後の世代──ジェネレーションに及ぼした影響をご紹介します。

 

抑圧された人々の必死の抵抗、魂の叫び

 

「ビート・ジェネレーション」とは、1940年代終盤から1960年代に人気を博し、戦後のアメリカ文化と政治に大きな影響を与えた文学運動です。

過激な表現も多く、代表作として名前が挙がるいくつかの書籍は検閲の対象となっています。

ウィリアム・S・バロウズが1959年に出版した『裸のランチ』はその典型例です(どのような作品であるかは、ぜひ河出書房新社から出版されている邦訳をご一読ください)。

 

宗教、ドラッグ、そして性──彼らがこれらを主題に据えていたのは、時代への、既存の価値観への不信感があったためです。

彼らは、腐敗した産業社会の習俗と絶縁することで悟りの境地にいたるのだという哲学を持ち,それを禅による神秘体験やジャズ・酒・薬物による陶酔で実現しようとしていました。

 

ビート・ジェネレーションの文学作品は、当時支配的だったモダニズム的秩序からの抑圧に反発し、内なる自我を無制限に解放することを目指しており、彼らの生活や思想を色濃く表しています。

麻薬中毒者の妄言のようにも思われる文章は、「清潔」で「合理的」な社会の抑圧に耐えかねた彼らの魂の叫びなのです。

 

物はいくらでもある、だがそれで幸せか

 

ビート・ジェネレーションが活躍した1950年代、米国は第二次世界大戦の戦争景気により物質的には豊かになりました。

その一方で、大量消費社会の完成は若者たちの心に一抹の不安をもたらしました。

「人間が機械に管理される」という皮肉も生まれ、人々が人間らしさとは一体何かを考え、心を疲弊させていったのです。

 

ビート・ジェネレーション運動に加担した作家やアーティストたちの生活は、一見したところただ快楽に溺れ堕落しているだけの生活に思われるかもしれません。

しかし、彼らはまさにそのような態度を示すことで、本来人間がどのような生き物であったかをまざまざと浮き彫りにしたのです。

時代を挑発するような彼らの行いは多くのフォロワーを生み、大きな社会的運動となっていきました。

 

もっと自由を──価値観の破壊と創造

 

1960年代に入ると、彼らの思想は多くのカルチャーや政治運動の精神的基盤となって働きました。

 

1960年代まで盛んに続けられたアフリカ系アメリカ人公民権運動も、ビート・ジェネレーションのもつ自由の精神に支えられていたと言われています。

また、性的欲求や性愛の肯定は、性的マイノリティの生き方に目を向けるきっかけにもなりました。

その意味では、昨今注目されているジェンダー論やクィア理論もまた、彼らビート・ジェネレーションの後裔にあたるということになります。

 

破壊的で破滅的な彼らの運動は、どちらかというと「お行儀のいい」ものではないかもしれませんが、古い固定観念を打ち崩し新たな価値観、世界観を提供するきっかけにも、間違いなくなっていたということでしょう。

 

日本語で読めるビート・ジェネレーションの代表作品

 

ジャック・ケルアック著・青山南訳『オン・ザ・ロード』(河出書房新社、2010年)

アレン・ギンズバーグ著・柴田元幸訳『【新訳】吠える その他の詩』(スイッチパブリッシング、2020年)

 

ビート・ジェネレーションを代表する作品は、日本でも人気が高く、今なお新たに翻訳され受容されています。

もし皆さんが鬱屈とした日々を過ごされているときには、とびきりハイな日々を過ごしていた彼らの文章が吹き飛ばしてくれるかもしれません。

ぜひ一度、その疾走感をご自身で味わってみてください。

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