コラム

自分史を自費出版するメリットとは**

自分史を書くことには多くのメリットが存在します。
表現欲求を満たすことに始まり、過去の清算や脳の老化防止など、様々な利点が紹介されています。
そのため多くの方が自分史を執筆しており、ひそかなブームであると言えます。

一方で、それを出版することのメリットはあまり知られていません。
「私の自分史なんて、わざわざ出版するほどのものではない」「自分以外の誰も得しない」と考えている方も多くいらっしゃいます。
しかしそれは本当なのでしょうか。

本コラムでは「そもそもなぜ出版するのか」を改めて考えたうえで、自分史はしょせん自己満足に過ぎないという主張にノーと答えます。
出版社の手で編集・流通させることで初めて、あなたの自分史は高い価値をもった作品に生まれ変わるのです。

そもそもなぜ「出版」するのか?

自分史をわざわざ出版する必要などないと考えている人たちにきちんと反対するには、自費であるかないかを問わず、そもそもなぜ出版するのかを考えなくてはなりません。

『世界大百科事典』で「出版」の項目を引くと、次のように書かれています。

出版とは人間の思想を公表・伝達するために、パッケージとしての書籍や雑誌を製作、発行、販売する一連の営みのことである。

この定義を噛み砕くと、出版とは「何らかの情報を公表するために、書籍を発行すること」だということになります。
執筆の段階では自分だけの作品であっても、出版するとなると他の方に対するメッセージになるということです。

ところで、技術が進歩した現代では、情報を広く公にすることができるツールは書籍だけではありません。
例えば、CDやDVDといったデジタルメディアが対抗馬として考えられます。
しかし一般に、CDやDVDを作成・販売することは「出版」とは呼ばれていません。
なぜ書籍だけが変わらず特別な位置を占めているのでしょうか。

北嶋武彦氏が監修した『現代図書館学講座2 図書館資料論』(東京書籍、1983年、pp. 20-21)では、書籍のもつ九つの特質が挙げられています。

  1. 記録性
  2. 保存性
  3. 反復性
  4. 復元性
  5. 量産性
  6. 保管性
  7. 軽便性
  8. 経済性
  9. 選択性

宮崎公立大学人文学部国際文化学科で書籍・出版について研究されていた田中薫元教授は、このうち③と⑥の保存性と保管性──すなわち耐久性──を重視しています。
現在は誰でも簡単に見ることができるCDやDVDですが、かつて流行したフロッピーディスクのように、再生できる機器をほとんど誰も持たなくなる時代が来るかもしれません。
再生機器がなくなってしまえば、デジタルメディアの中に保管されていたデータも道連れとなり、誰の目にも触れられなくなってしまいます。
その点、書籍は中身を理解するために高度な技術は必要ありません。
書籍は、適切な環境で管理しさえすれば、いつまでも誰でも読める伝達手段なのです。

この点に、書籍が特別扱いされている理由があるのかもしれません。
そうだとすれば出版の意義も、今この同時代を生きている人はもちろん、私たちが出会うことのない未来の世代の人々のためにこそあると考えることができます。

自分史は自己満足に過ぎない?

改めて「自分史をわざわざ出版する必要などない」という考えを振り返ってみましょう。
出版とは「何らかの情報を公表するために、書籍を発行すること」でした。
つまり「出版しなくていい」とは、その自分史をわざわざ人に見せる価値などない、という意味の主張だと解釈できます。

しかし実際のところ、自分史には高い文学性が秘められており、読者の心を掴むこともあるのです。
例えばノンフィクション作家の工藤美代子氏は、著書の『読ませる自分史の書き方』のなかで次のように述べています。

平凡で書くに値しない人生なんて、どこにもないと私は思っています。その気になって自分の歩いてきた道を振り返ってみましょう。
そうすれば、筆を執りたくなるような体験のひとつやふたつ、必ず見つかると断言できます。

事実、同書のなかで工藤氏は、28歳でガンを発症した患者のブログを読み、あまりの感動から涙を止めることができなかった、と書いています。
したがって、全ての自分史が自己満足に過ぎないと考えるのは間違っていると反論することができます。

文章力に自信のない方でも、出版に際して編集の工程を経ることで、編集担当者と意見交換を行いながら作品のクオリティを高めることができます。
周囲の批判を受けて諦めるよりも前に、まずは出版社に原稿を応募してみることが大事だということです。

未来の研究資料としての自分史

書籍出版のもつ特質として、同世代だけでなく未来の人々にも考えを伝えることができる点を挙げました。
では、自分史の自費出版は未来の人々にとってどのような意味をもっているのでしょうか。

最初に「自分史」という用語をつくった色川大吉氏は、自身を「私はその庶民の人生記録を貴重な歴史の資料として受けとめた歴史家、研究者」と称しています。
つまり「自分史」という言葉がこの世に生まれたとき、それは歴史的資料として高く評価されていたということです。
例えば戦争体験について書かれた自分史は──それを語ることのできる方が少なくなっていることからも──、すでに大きな価値を持っています。
出版社という第三者の入念なファクトチェックによって、事実関係の曖昧な部分は修正し、史実の記録としてさらに質の高いものを作ることができます。
貴重な経験を誰にも見せることなく葬ってしまうのではなく、出版社の手で編集・流通させることの社会的意義がお分かりいただけると思います。

コロナウイルスの影響で世界中が混乱の渦中にある今、医療従事者・食品業界・旅行会社はもちろん、どなたにも一人一人に辛さや苦しみがあることでしょう。
何年後になるかは分かりませんが、いつかこの時代を振り返るべきときが訪れた際、あなたの言葉は歴史の証言になるかもしれません。
自分史の出版は、私たちの生きた時代を守るための未来へ向けたメッセージとなりうるのです。

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