執筆お役立ちコラム

「高齢で自分で執筆できない祖父(80歳)が自分史を書きたいと言っています」/出版のお悩み相談

今回のコラムでは、 出版の際、あるいは出版を検討する際に 皆さまからよくいただくご質問、 ご相談をご紹介したいと思います。

今回は、ご家族の自分史制作についてのご相談です。

ご相談
「祖父(80歳)が自分史を書きたいと言っています。祖父は高齢で自力での執筆は難しく、私も素人であるため手伝いができません。せっかくなので本人が満足できるものをつくらせてあげたいのですが、自分で書くことができずとも制作することはできるのでしょうか。その場合、具体的に何から始めればよいのでしょうか。」

編集者からのアドバイス

素人であるということですが、自分史を書くにあたってあまり気負う必要はありません。

誰も経験しえなかった特別な人生体験も、多くの読者を魅了する高い表現力も重要ではなく、書きたいという気持ちが何より大切です。

自分史の制作の大部分は、振り返りと整理です。

ただし、時間をかけて進める必要がありますので、会話を通してゆっくりと取り組みましょう。

決まりごとなどないようにも思える自分史ですが、自分史を書くにはいくつかの決めなければいけないポイントと、整理しなければいけないポイントがありますので、相談者様がそのお手伝いをして差し上げることが大切です。

整理ができた後は、自力での執筆ができなくても、出版社にそこから先の協力(取材と執筆、製本までの全て)を依頼することができますので、ポイントの整理ができた段階で、編集者に相談をしましょう。

もちろん、出版社が企画したフィクションではありませんから、あくまで主役はご本人様です。

このことを念頭に置きながら以下のように進めてみましょう。

【テーマ】と【出版形態】

まず決めなければいけないポイントは、【テーマ】と【出版形態】です。

「生まれてから現在まで」をテーマにすることが最もスタンダードな形です。

年表を一緒につくり、思い入れの強いエピソードを記載していきながら、生まれてから現在までを時系列に沿ってまとめていく書き方になります。

他に、戦争体験、家族、仕事や夢、出会いと別れなど、「特定の出来事や事柄」をテーマとする方法もあります。

共に重要となるのは、それぞれの出来事を主観でとらえるだけでなく、時代背景としっかりリンクさせて執筆していくことです。

テーマについての希望をご本人様と確認できたら、次は【出版形態】を決めましょう。

自分史には大きく分けて以下の3タイプがあります。

①自分だけのための自分史
家族や知人に読んでもらう自分史
③広く読者に知ってもらって世に残す自分史

この3つの中のどれを選ぶかによって書き方や、書ける内容が大きく変わってきますので、しっかりと話し合うことが大切です。

自分史制作のポイント

【テーマ】と【出版形態】が決まれば、いよいよ制作となります。

今回は、スタンダードな生い立ちを時系列で追っていく内容を想定してお答えさせていただきます。

まずは過去を振り返ってエピソードを整理していく作業が必要です。

「幼少時代はどんな生活を送っていたのか」というような質問をご相談者様がしていくことからスタートすることもよいですが、時系列が整理できていないと、後々食い違いが出てくることもありますので、多少お手間でも、幼少期、学生、社会人、結婚など大まかな年表の作成を先に始めることをお勧めします。

この年表の完成には時間がかかります。

時間をかけずに済ませてしまい、製本が近づいてから思い出したものの、追加が間に合わず、不完全な形で完成を迎えてしまうことがあります。

記憶を手繰り寄せる作業は机に向かって集中していればできるわけではありません。

何気なく公園を歩いているとき、家族と談笑しているとき、思い出の地に出向いたときなど、思い出したときにすぐにメモを取るなどしながらゆっくりと時間をかけながら作成するようにしましょう。

年表ができたら、いよいよ執筆となります。
ここから先についてはご相談者様だけではなく、出版社の編集者と進めることが良いでしょう。

自分史は一生のうちに何度もつくるものではありません。

他の誰も経験していない、ご家族でも実体験としては知りえない思い出を誰かに読んでもらうために文字におこし、色あせないものにしていく作業です。

事務的に残す記録とは違い、その時どう思ったのか、なぜそう思ったのか、胸に秘めていた憧れ、悲しみ、怒りを読んだ人にしっかりと理解してもらうための表現力が必要となります。

作り上げた年表を元に編集者と打ち合わせ、無理のない制作スケジュール、インタビュー方法を考えましょう。

忘れてはいけないのが、主役はあくまでご本人様だということです。

ご家族から見てたくさん書き記して欲しいと思うエピソードと、ご本人が残したいものは必ずしも一致しません。

ご家族からすると、経験をともにしたエピソードを書いてもらうことは大変嬉しいことではないかと思いますが、一生に一度の自分史ですから、ご本人の意思を尊重してあげましょう。

しかし、誰かに読ませる自分史であれば、気を付けなければいけないポイントがいくつかあります。

自慢しすぎない

一つは、自慢しすぎないことです。

何かを書き記すのであれば当然、ご本人ががんばったこと、人から称賛されたことのみを書きたくなるのは当然ですが、人よりいい暮らしができた、成功したなどのエピソードがあまりに多くなってしまうと、読む方が楽しみながら読むことができなくなってしまうこともあります。

成功エピソードだけではなく、苦労したことや、失敗を経験したことも盛り込んでいくことで、「大変な苦労もしたんだな」と、大きな共感を持って読んでもらえるはずです。

秘密は秘密のままに

二つ目は、読んだ家族が悲しむような秘密は、秘密のままにしておくことです。

こういった機会でもなければなかなか胸に秘めてきた事実を明かす場面もないでしょうから、それを自分史として残すこともいいかもしれません。

しかし、読む人を不幸にする秘密もあります。

それらはそうと分からないように変換して残すことなど、配慮があればよいですね。

自分史で恨みを晴らさない

三つめは、恨みを晴らす場としないことです。

過去を振り返ると、あの時あんなに一生懸命だった自分にあの人からひどい仕打ちを受けたなど、月日が過ぎた今も怒りがこみあげてくるエピソードもきっとあることでしょう。

ですが、実名で名指しをして相手への恨みを書き記すことは避けるべきです。それを読む家族や周囲の人間がそれを読むことでその後何か間違いが起こるようなことがあってはいけないからです。

ここまでご紹介してきたように、自分史の制作には多くの時間が必要となります。
制作をあきらめてしまいたくなるような瞬間もあるかもしれません。

しかし、自分史は人の人生という大変魅力的な本です。他の誰にもつくることはできません。

有名作家が考えることができないような出来事がいくつも起こってしまうのが人生です。

また、それらを書物として残すことは後世を生きる人たちにとってかけがえのない価値を持ちます。

ゆっくりで構いませんので、その取り組みの価値を共有しながら取り組みましょう。

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