「戦国時代の歴史小説の原稿を書いているのですが、事実の調査ができない部分があり、頓挫してしまっています。」/出版のお悩み相談
毎回好評をいただいている「出版のお悩み相談」コラム。
今回は、歴史小説執筆についてのお悩みです。
『おんな城主 直虎』『真田丸』、今年公開予定の『無限の住人』などテレビドラマや映画・舞台などを、時代劇の人気は衰え知らず。
常に私たちを魅力的な世界に引き込んでくれます。
何百年も前に存在した英雄たちの奇跡的な出会いや別れ、葛藤……歴史が動くその時々の人間ドラマには普遍的な魅力があります。
そんな歴史小説出版に関するお悩みにお答えしたいと思います。
ご相談
「戦国時代の歴史小説の原稿を書いているのですが、事実の調査ができない部分があり、頓挫してしまっています。まだ導入部分も書き終わっておらず、完成まで進められるイメージができません」
編集者からのアドバイス
ご相談者様は戦国時代に関心をお持ちなのですね。
戦国時代には未だ明かされない謎が数多存在します。
それゆえに人物や出来事に思いをはせ、「あの時はこうだったのではないか」、「もしもあの時偶然が起こっていなかったら」と想像が膨らみます。
ゆえに歴史小説の出版は人気のジャンルですが、原稿が完成しない理由の多くは今回のご相談のようなケースです。
歴史小説最大の魅力は事実ではなく「人物」
「この時代のエピソードを書きたい。」
そう思ったときに、まずは資料を手当たり次第に集め、記念館を訪れて管理人の方に聞き込みをするなどした上で、原稿の執筆に入ろうと計画したものの、肝心の情報が十分集まらずに、書き始めることができないといったケースが多数を占めています。
今回のご相談者様も、おそらくそのような進め方をしていらっしゃるのではないかと思います。
まずお伝えしたいのは、歴史小説の魅力の大部分は豊富なエビデンスではなく、「人物の魅力」であるということです。
もちろん、戦国時代に存在しない近代的な生活用品が出てきてしまうなど、事実とかけ離れた描写が入ってしまうことは避けなくてはいけませんが、この小説で読者に感じて欲しい、歴史人物の魅力を明確にすることが重要です。
「豪傑といわれる人物の弱さ」、「スポットライトを浴びてこなかった人物の秘めたる気概」など。それがこの小説の「テーマ」になります。
伝えたい人物の魅力が決まったら次は構成(プロット)
テーマに定めた人物の魅力をどう伝えるのか、それを実現するためのプロットを描くステップに進みましょう。
プロットを固める前に調査に時間をかけたくなるお気持ちもわかりますが、重要なのはエビデンスやディテールではなく人物の魅力です。
その魅力をしっかりと伝えられるプロットをつくることさえできてしまえば、ディテールは後から肉付けができます。
三幕構成という構成の仕方が効果的です。
三幕構成では、ストーリーは3つの幕 (部分) に分かれます。それぞれの幕は設定、対立、解決の役割を持ちます。
幕と幕はターニングポイントでつながっています。
ターニングポイント (プロットポイント) は、主人公に行動を起こさせ、ストーリーを異なる方向へ転換させる出来事です。
繰り返しになりますが、歴史小説の魅力の大部分は人物です。
いかに史実に忠実で完成度の高い描写ができていたとしても、肝心の人物の魅力が伝わらなくては、小説ではなく記録、ドキュメントになってしまいます。
この点を意識して取り組んでみてください。