作家と出版社の『ミゾ』が深まる時代――編集者が語る作家活動の本質とは
2016年も残り2ヵ月弱。今年は執筆活動をしている皆さんにとって、見逃せないニュースもあったと思います。例えば、売上1位のベストセラーに『絵本』が選ばれたり、Amazonが読み放題プランを開始したり、芥川賞作家がまさかのコンビニ勤務であったり……。
全く新しい流行やサービスが生まれるなか、自分のペースで作家活動を続けていくには、そうした変化とどう向き合っていけば良いのでしょうか? 毎月10冊の本を世に送り出す、当社の編集者に聞いたインタビューをお届けします。
作家自ら発信力を磨く時代に
― 先述のとおり話題が尽きない出版業界ですが、今なにが起きているのでしょう?
今の出版業界は多くの方がご存知のとおり、1996年を境に右肩下がりの不況に入りました。
売上を取り戻すために、出版社は売れる作品のみを採用し、取次・書店は本の売り方を試行錯誤しています。そして注目したいのが、それらに頼らず「自力で本を書いて売ってみよう」という発信力のある作家が増えていることです。
― 作家のみなさんは、具体的に何をしているのでしょうか?
自分で印刷・製本した本を手売りや電子ストアで販売したり、ブログ・SNSを駆使して作品のファンを集めたりしています。近年はWEB小説投稿サイトが大人気で、2005年を皮切りに70万人の作家会員が生まれたと言われています。
そうした経験を積んで「自分も作家デビューの可能性があるかもしれない」と考える人が増えた反面、実際に出版社からデビューするのは大変難しく、その難易度の考え方にギャップが生まれています。
発信力の強い人気作品が、『売れる』作品かは別問題。
― ギャップとは、例えばどんなことでしょうか?
仮に、自己最高点だと思える作品が書けて、それに大勢のファンがついたとします。そうなったら誰でも「出版社に採用してもらえるかも」と思いますよね。ただ、実際に話を持ちかけると、あっさり断られる事例が大半です。出版社側から声もかからない。
これは、自分でファンを増やして獲得した『人気』と、出版業界が実際に『売れる』と考える作品は違うということです。かつて、デビューを目指す人のほとんどが、作家の登竜門と言われる新人賞への応募、出版社への持ち込みを経験していました。そこでなぜ落選したのか、何度も何度も悩んで作品を推敲し、腕を磨いたものです。
ところが、今はそれらを省略して、好きなときに好きなやり方で作品を発信し、読者の好評を直接吸い上げることができる。執筆意欲を保つのには良い機会ですが、それが実際に『採用』される条件とは限りません。
もちろん、自力でファンをつくることは素晴らしい実績です。ただ、それとは別で評価軸があることを知り、ファン以外から作品に対する客観的な評価を受ける機会をもつべきでしょう。
現場の人の意見を求め、批判される勇気を持つ。
― では、実際に何をすればいいのでしょう?
私は出版社の人間ですので、やはりオススメしたいのは新人賞の応募と出版社への持込でしょうか。今は応募した作品に、きちんと感想をくれるところもあります。ファンづくりの傍らで業界の人と繫がり、出版市場の動きや作品への意見を定期的にもらいましょう。
弊社も不定期で原稿講評サービスを実施したり、『読むカフェ』という書き手と読み手の交流サイトをオープンしました。読むカフェの規模はまだ小さいですが、寄稿コーナーを設けて作品を募集し、時々ですが感想もお返ししています。読者が多いという点では大きなサイトに及びませんが、幻冬舎グループや本好きな人と繋がれるメリットはあると思います。
ブレずに粛々と執筆できる人が強い。これは昔から変わらない。
― 最後に、作家がこれからの時代と向き合っていくための抱負をお願いします。
世の中の状況はキャッチしつつも、粛々と作品を書き、読者とも業界側とも接点を増やしていく。これが今の時代を味方につけた作家活動ではないでしょうか。
もちろん、私は一世を風靡するような「無名作家 衝撃の作家デビュー!!」といった話題も大好きです。自分では絶対に実現できない夢をお手伝いさせて頂けるのは、編集者として本当に嬉しく、日々が感謝の連続です。
みなさんの活動も出来る限りお手伝いしたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いします。