読者の心を掴む「書き出し」パターン|小説の書き方講座
読者の心を掴む文章を書く上で大切な、「書き出し」について学ぶ本コラム。
引き続き、書き出しポイントをお伝えしていきます。
前回ご紹介した「自己紹介や著者の体験談をひと言で書く」「目に見える情景をひと言で書く」も参考にされてくださいね。
著者や登場人物の意見・感想から書き出す
「私は○○だと思う」「昔、○○だと思っていたことがあった」など著者や登場人物の意見・感想から始まるのは、小説やエッセイ、評論でよく見られる書き出しのパターンです。
与謝野晶子・著『階級闘争の彼方へ』の書き出しは、このパターンで始まります。
人類が連帯責任の中に協力して文化主義の生活を建設し、その生活の福祉に均霑することが、人生の最高唯一の理想であると私は信じています。文化生活が或程度の成熟期に入れば、そこには個人の能力に適する正当な社会的分業の生活があるばかりで(以下略)
(出典:青空文庫「階級闘争の彼方へ」 )
評論作品はどうしても課題の背景や状況説明、物事の立証などに文章量を要するため、長々とした文章になりがちです。これでは読者は飽きてしまいますから、上記のようにまずは結論(=著者の考え)を書くことで文章にメリハリをつけましょう。
魯迅・著『明日』は著者ではなく、登場人物のセリフから始まります。
「声がしない。――小さいのがどうかしたんだな」
赤鼻の老拱は老酒の碗を手に取って、そういいながら顔を隣の方に向けて唇を尖らせた。
藍皮阿五は酒碗を下に置き、平手で老拱の脊骨をいやというほどドヤシつけ、何か意味ありげのことをがやがや喋舌って(以下略)
(出典:青空文庫「明日」 )
小説であれば、このような始まり方で良さそうです。
モノローグやセリフから始めることで、長い説明を省略
また、近年話題の作品ジャンル、ライトノベルでも同じ書き出しが見られます。語り手や登場人物の意見をモノローグやセリフにして書き出しているのです。
第21回電撃小説大賞 大賞受賞作、鳩見すた・著『ひとつ海のパラスアテナ』は、
『地球は青かった』
ビフォアの時代、ソビエト連邦の宇宙飛行士だったユーリ・ガガーリンの発言は、いくつかの意訳を経てそんな風に世間に伝わった。
当時の埃った地面やコンクリートの森に住んでいた人々は、その言葉に大いなるロマンを覚えたという。
(出典:出典:株式会社KADOKAWA「電撃大賞」 )
このような書き出しをしています。
作品独自の世界観や登場人物の説明などから入るよりも、まずは意見(モノローグやセリフ)から入ることで、「どんな話が始まるんだろう?」「このキャラクターはどんな人物なんだろう?」といった読者の想像力を掻き立てることができます。長い説明も省略できて一石二鳥ですね。
今も昔も、著者や主人公の意見・感想から書き出すことは、様々なジャンルに応用できる便利な方法です。ぜひ覚えておいてください。