重版がかかる本の売り方|自費出版はギャンブルではなく投資
自費出版であっても、初版で終わってしまうような本にはしたくない、できれば2刷、3刷と数を重ねていきたいという思う方は多いでしょう。
しかし、「中身が面白ければ売れる」という素朴な考えだけでは到底戦えません。重版をかけるためには、実はそれなりの作戦があるのです。
本コラムでは、重版をかけることで長期的に書籍を販売していくための戦略をご紹介します。
ポイントは以下の3点です。
- 初版の発行部数は1,000部単位にする
- 配本すべき書店を見極める
- 印税は未来のための投資に使う
最後に勝つのはカメ 初版は1,000部単位が一般的
『ウサギとカメ』という昔話は、恐らくみなさんご存じでしょう。
ウサギとカメのかけっこ対決が行われ、最初に大きくリードをとったことで油断したウサギが途中で眠りこけてしまい、のろのろ歩きでも頑張り屋のカメに打ち負かされるという訓話です。
この教訓は出版の世界にも応用できます。
一般的に、自費出版をされる著者様には、初版は1,000部単位での発行をお勧めしております。
つまり、最初から飛ばしすぎるのではなく、コツコツ重版を重ねることで売り上げを伸ばすカメタイプの販売戦略です。
しかし、自分の作品に絶対的な自信をもつウサギタイプの著者様は、出版社の意見に難色を示します。
「これほどの大傑作に、それしか刷ってくれないの? あの先生の本は『〇万部発行』って言ってたよ?」というふうに。
出版社が気鋭の新人作家の邪魔をしている、と感じる著者様もいらっしゃるかもしれません。
しかしここで注意してほしいのは、皆さんが広告で目にした/耳にしたのが、あくまで発行部数だということです。
有名作家の本であっても、実売部数では大コケしているということもあるのです。
「いわんや無名作家をや」という危機意識を持ち、自費出版の際にはリスク管理に努めるべきでしょう。
著名な作家たちの販売戦略はいわば「サボらないターボエンジン付きウサギ」のようなもので、一握りのスーパースターにのみ許される戦い方です。
下手に真似して無理をするよりも、コツコツ版を重ねることで堅実に売り上げを伸ばす方が、はるかに安全なのです。
さらに言えば、本当にあなたの作品が大傑作であったとしても、初版から大量に発行する必要はありません。
後から重版がかかり、結果的には長く愛される作品になることでしょう。
ベストセラー作家になったあとで、「あの出版社にはこんなことを言われたが、私には要らぬ心配だったようだ」と自伝に書いていただければ光栄です。
売れる書店にしか本は置かない 配本は計画的に
上述のとおり、自費出版で一からチャレンジする場合、1,000部単位の発行部数でより多くの反響を呼ぶ必要があります。
そこで重要となるのが、配本です。配本とは、出版社が書店に本を流通させることです。
このとき、どの書店にいくつ書籍を送るかという作戦を上手く立てれば、少量の冊数でも充分に勝負ができます。
2019年5月時点で、日本には11,446店舗の書店が存在しています(アルメディア調べ)。
当然この中には小規模な店舗や、客の出入りが少ない店舗も含まれています。
自分の資産を投じて作り上げた著書数千部のうち、貴重な1冊の行き先に小さな書店を選ぶ著者がいるでしょうか。
もし出版をビジネスとして考えるのであれば、そのような選択は恐らくしないでしょう。
では一体、配本すべき書店の数はいくつあるのでしょうか。
実は先に挙げた全書店数の40%、4,500軒の書店だけで、約8割の売上シェアを占めているのです。
実際に配本する際はここからさらに絞り込み、売上首位クラスの書店に集中して配本するのが効果的です。
改めて、初版に際して数万部、数十万部も発行する必要はないことがご理解いただけたでしょうか。
とはいえもちろん、最も重要なのは著者様の満足度です。
幼少期を過ごした地元の商店街、いつも優しくしてくれた店主のいる書店に本を置きたいといったご希望があれば、なんなりとご相談ください。
その印税、まだ増やせます 必殺「印税相殺」
あなたの作品が世に認められ、夢の印税を手に入れたとします。
しかし、ここで満足するのは非常にもったいないです。
手に入れた印税を広告費として活用することで、次の重版に繋げることができるのです。
この方法を「印税相殺」といいます。実は多くの筆者がこの手法を使っています。
印税として貰える金額は、書籍価格×発行部数(電子書籍の場合は実売部数)×印税率で割り出します。
試しに計算してみましょう。
例えば880円の書籍を1,000部発行し、印税率を6%にすれば、印税額は880×1,000×0.06=52,800円です。
……意外と少ないと感じた方も多いかもしれませんね。
ここで終わりにするか、それともこの5万円を元手にさらに本を広めるか。
今「思ったよりも貰えないんだな」と思った方は、ここで提案したように広告という投資をご検討いただくのも手の一つでしょう。
まとめ
本コラムでは、重版をかけることで長期的に書籍を世に広めるための戦略をご紹介しました。
自費出版へ踏み切るには勇気が必要ですが、決して向こう見ずなギャンブルというわけではありません。
勢いだけの出版では、勢いに呑まれて身を滅ぼすことになります。
重版を目指してコツコツ投資をすることで、童話のカメのように勝利を収めましょう。
長い道のりであればあるほど、振り返ったときの感慨が胸に沁みるはずです。