事実は小説よりも奇なり ~ノンフィクションを書きたいあなたへ~
日常生活で面白いと感じたことを、周囲の人に話そうと思うことはよくありますよね。
SNSが普及した昨今、新しくできた気になるカフェや、ふてぶてしい顔の野良猫など、魅力を感じたものはすぐに文字や写真を通じて人と共有できるようになりました。
実はノンフィクション作品の執筆も、この延長線上に位置しています。
「これを知ったらびっくりするだろう」「あの人にも教えてあげたい」といった誰しも抱きうる気持ちが、ノンフィクション執筆の背景にはあります。
しかし、なかなか筆が進まず結局放り出してしまうことも多いはず。
本コラムではそうしたスランプを乗り越え、ノンフィクション作品を完成させるための方法をご紹介します。
1. まずは徹底的な調査から始める
ノンフィクションを執筆する際には、とにかく調べることが重要です。
ネット、新聞、映像、書籍、インタビューなど、調査方法は多岐に亘ります。
特にインタビューは生の声のため、まだ知られていない最新の情報が得られるかもしれません。
調査を行ったら、信頼できる情報かどうか必ず確かめましょう。
デマ情報を掴まされては、そもそも「ノンフィクション」たりえるかどうかさえ危うくなってしまいます。
ネットに比べ、新聞や書籍は高い信憑性が期待されるため、頼ってみるのがいいでしょう。
もちろん、各媒体の特性を踏まえたうえで、例えば新聞でも複数のものを比較することは重要です。
いついかなるときも情報を鵜呑みにしないことが、徹底した調査の鉄則です。
2. テーマ選びで重視すべき五つの項目
ノンフィクション作品にはさまざまなテーマが考えられます。
ノンフィクションライターの野村進氏が書いた『調べる技術・書く技術』(2008年、講談社)には、以下の5点を重視すべきとあります。
ぜひ参考になさってください。
①時代を貫く普遍性を持っているか
②未来への方向性を指し示せるか
③人間の欲望が色濃く現われているか
④テレビなどの映像メディアでは表現できないか、もしくは表現不可能に近いか
⑤そのテーマを聞いた第三者が身を乗り出してきたか
①と②の基準は、長く愛される作品を作る際に重要となります。
ある時代の世相を色濃く反映したノンフィクション作品には、読み物としての面白さだけではなく歴史的資料としての価値が宿ります。
もし皆さんがノンフィクション作家として歴史に名を残したいのなら、それに見合った射程の作品を書かなければなりません。
③と⑤は、読者の心を惹きつける吸引力に関わります。
とりわけ③は、ノンフィクション作品を書くことがときに人間の暗部に迫るものであることを物語っています。
痛ましい戦争の記憶など、道徳的には決して褒められたことではなくとも、それを事実として記録に残すことには大きな意義があります。
人間とは一体何者か、その核心に迫ることができれば、力作になること間違いありません。
④は文章表現のもつ独自性に関する基準です。
先述した「事実の記録」という観点からみると、映像資料に勝るものはないように思われます。
しかしだからといって、文章を使ったノンフィクション作品の敗北が決まったわけではありません。
人々の心情や時代の雰囲気など、目には見えないものを生き生きと描写することによって、ノンフィクション作品のみが獲得しうる魅力が備わります。
3. 脚色はせず事実のもつ力を信じる
ノンフィクションである以上、事実に脚色を加えてはいけません。
余計な演出などなくとも、作品として残すだけの価値のある出来事であれば、それ自体に人を惹きつける力があるはずです。
わざと面白くしようとするのではなく、とにかく忠実にあるがままを写し取ることから始めてみましょう。
著者が語るのではなく、事実それ自体に語らせる──ぜひこの心がけをもって執筆に励んでみてください。