誰が「人気マンガ」を支えているか?
2016年現在、出版大不況の中、コミックの売り上げだけが何とか上昇を続けています。小説や実用書から離れても、マンガをレンタルしたり買い揃えたりする人はみなさんの身の回りにもいるのではないでしょうか。
とはいえ、マンガであればどれも売れる、というわけではありません。
では、面白いから売れるのか?奇抜だから売れるのか?
マンガが売れるカラクリを見てみると、マンガを取り巻く人たちの奮闘が見えてきます。今回は「書店員」と「編集者」の視点を紹介します。
“風雲児”と呼ばれた書店員の力
この春、TSUTAYA 三軒茶屋店では大幅なリニューアルが行われました。
コミックレンタルの開始やステーショナリの導入など、大胆な刷新となりましたが、中でも注目は、時代の風雲児と呼ばれる栗俣力也さんが初めて「売り場の全面プロデュース」に挑戦したコミックコーナーでしょう。栗俣さんは、それまで全く売れていなかった書籍を、ひとつの書店からヒット作にまで押し上げるカリスマ店員。特にコミックを得意とする方で、業界では「仕掛け販売」のプロとして有名です。栗俣さんは「今キテるジャンル」「見せ方」「読者参加型」を意識して仕掛けを次々に生み出しています。
例えば、今好評なのは「恋愛ミステリー」。そのジャンルであれば、古い小説であっても表紙などの「見せ方」を自ら変えて売っていく、というような仕掛けを発案しています。
また、書店の売り場で漫画家が原稿を書き、気になった人がその場で手にとる「参加型」のイベントなども考案しています。売れるために重要なのは「見せ方」。たとえ内容が良くても、それだけでは売れないのです。
漫画家が「母」なら編集者は「父」
『月刊!スピリッツ』掲載の人気コミック『重版出来!』は、この春ドラマ化され非常に話題になりました。熱きマンガ編集者黒沢心を主人公としたストーリーは、出版業界からの反響も大きかったようです。
実は、作者の松田奈緒子さんは、この「重版出来!」が青年漫画誌初連載でした。そんな初挑戦を支え、戦略的にヒットに導いたのが、担当編集の山内菜緒子さんです。
彼女は、漫画家がマンガの母ならば、編集者である自分は読者=社会に近い客観的な視点で、「このマンガはもっとこう育てていこう」と話をする存在でなければ、とおっしゃっています(木村俊介著『漫画編集者』より)。
つまり、漫画家を支えるだけでなく、読者の30分、1時間を他の娯楽に負けないくらい楽しいものにする、という意識で編集にあたっているのです。
山内さんは、マンガを作品ではなくあくまで「商品」をおっしゃいます。売れなければ意味がない、という思いが生まれたのは、かつて在籍していた雑誌『ヤングサンデー』が休刊になったことが大きかったようです。
「重版出来!」の中でも、これに重なるようなエピソードが登場しています。
山内さんの言うように、編集者が第三者として読者の代弁をしなければヒット作は誕生しないといっても過言ではないのです。
いかがでしたでしょうか。漫画家ひとりではマンガはできません。書店員、編集者との並々ならぬ熱いやり取りがあって、読者まで届く。編集者や書店員を思い浮かべながらマンガを読むと、また違う感想が生まれてくるのではないでしょうか。