大賞作品
電子書籍化
『ささやかな誤算』深芳唯子:著
【大賞作品 幻冬舎より電子書籍化】
■著者紹介
『デパ地下の君』(深芳唯子・著)
※出版にあたりタイトルが変更になりました。
発売:2018/6/27
平日の3時過ぎ、間のびした空気が流れる電車のなか。わたしが読みかけの文庫本を読もうとすると、視界の端で、少し空いたところに座る中年男性が動き出した。彼は正面と自分の膝とに、視線を何度も往復させながらスケッチブックの上で鉛筆を動かしている。視線の先には、母親に連れられた幼い女の子がいた。わたしは彼がよからぬことをたくらんでいるのではないかと不安になってきたので、さりげなくスケッチブックを覗く。そこに描かれていたのは、俯きがちに絵本を読む無垢な少女の似顔絵だった。
受賞者:深芳 唯子様
「デパ地下の君」電子書籍出版のご感想
在学中に見よう見まねで執筆活動を始めると、文章を書くことの魅力に取り憑かれました。読書は昔から好きでしたが、これまで自分は読む側の人間だと勝手に思い込んでいたので、「ああ、わたしでも書けるんだ」という発見が大きかったですね。
大賞に決まったという連絡をいただいたときには、大袈裟でなく足が震えました。自分が感じたことをそのまま綴った文章が誰かの目に留まって、高く評価されたということが何より嬉しかったんです。少なからず、これからも文章を書き続けようという意欲にも繋がりました。
わたしのイメージに寄せた素敵なカバーデザインの電子書籍に仕上げていただき、配信後は友人たちからも「読んだよ!」「面白かった」という声をたくさん掛けてもらいました。自分のプライベートを綴ったエッセイが多くの方の目に触れる形で出版されるのは面映くもありますが、今回このような素晴らしい機会をいただけたこと、幻冬舎や関係者の皆様には深くお礼を申し上げます。
大賞作品『ささやかな誤算』
編集者講評
「わたし」が見ていた何気ない日常が、中年男性のふとした動きに気づくことによって、見え方が変わる。中年男性の描く絵が判明してからの場面展開に、一気に引き込まれました。全体の起承転結がしっかりとしているため、読む者を飽きさせない力をもっている作品。
物騒な世の中といわれながらも、子どもを見守る大人がいなくなったわけではないことに気づかされる。見過ごしがちな日常の一場面を、臨場感のある描写で仕上げており、「わたし」が周りをよく観察していることがわかる。「正義感」や「野次馬」といった人間らしい心の動きがみえるのも評価のポイントでした。