大賞作品電子書籍化
大賞
『応永の風』
平野周:著
【大賞作品 幻冬舎より電子書籍化】
大賞作品『応永の風』
編集者講評
時代小説特有の重厚感が心地よく、読後も読者の心に余韻を残すような印象深い作品でした。元寇や外交をモチーフにしていることで、歴史ロマンの中でもオリジナリティが発揮されています。教科書や専門書で取り上げられるほど、一般的には難解と思われる内容でありながら、時代小説として物語性を与えることで難解さを和らげ、ここまで物語の世界観を広げている点は実に見事です。
噂から始まり、少しずつ真実が解き明かされていく展開は、まるで推理小説のように、読者の想像力を刺激します。また、時代小説は説明口調になりやすく、語り口も独特であるために読者を選びがちですが、本作はジャンルに馴染みのない方でも読み進めやすい作品であり、新たな読者層を開拓できる可能性が感じられた点が、何よりの決め手です。
身分の差が激しく、情報の共有が難しい中を生き抜く姿からは、現代にも活かすべき知恵や教訓が垣間見えます。時代小説としてあまり類を見ないテーマに焦点を当てることで、新しい価値を見出し、読者の心を掴んで離さない至極の作品でした。
学生運動をテーマにした本作品。若い学生たちの勇敢な姿に鼓舞される思いで胸がいっぱいになります。読者は、当時の大学生たちが国や政治を変えるべく、自らの命を投げ打ってでも運動を勃興させた勇気に感服の念を抱かざるを得ないでしょう。文学作品の中でも、学生運動にまつわる作品は多く目にします。しかし本作品は、他と一線を画し、描写が非常に緻密な点が見事です。当時の学生たちの思想や、それに伴う人間関係の錯綜に強く興味を引かれました。タイムスリップしたような感覚に陥り、現代においても同じように、何かを変革したい強い気持ちに駆られることでしょう。
本作品の魅力は、文章構成がしっかりとしていることです。場面の切り替えが明確になっていることで、描写と気持ちを連動させて読むことができます。シナリオでは、場面描写の切り替えが重要です。曖昧な切り替えではなく、固有名詞も連動して、しっかりと話が展開していく点に、作者の創作力の高さを窺うことができます。また本作のもう一つの魅力はやはり、登場人物の心情描写です。学生運動を行う傍ら、彼らが抱える憧れや恋心には共感の念も抱くことができます。作者の観察眼が光っている作品だと強く感じました。