海の賜物
田中雄一:著
あらすじ
2011年3月11日、未曽有の大震災が東北を襲った。生活のすべてを奪った災害は、多くの人々に消えることのない爪痕を残した。水産加工会社で働く慎二と社長の悟も、震災によって大きな決断を迫られることになる。
外資系コンサルで激務にあえいでいた慎二は、離婚をきっかけに職を辞し、何をするともなく日々を過ごしていた。旧友の悟と出会い、彼の変わらぬ姿に懐かしさと憧れを抱き、彼の会社で働くことを決意する。しかし、悟の旧態依然とした経営が腑に落ちず、「東京から来たよそ者」と社員からも反発される日々。そんななか、突然東北を襲った震災によって、会社の存続は危ぶまれる。多くの会社と同様に、従業員を解雇すべきか、それとも。慎二が出した結論とは、いったい――。
審査員
山名 克弥
株式会社幻冬舎ルネッサンス新社
代表取締役社長
「プロの読者目線」を信念に、1ヶ月に5~10冊の書籍刊行に携わる。かつては企画営業部に在籍した経験から、書店への流通・販売戦略の立案や、プロモーション戦略面についても熟知し、制作面に拘わらずそれぞれの著者に最適な出版戦略の企画立案を得意とする。
趣味は食べ歩き。
下平 駿也
株式会社幻冬舎ルネッサンス新社
編集長
書籍の企画立案はもちろん、出版後の販促やイベントにまで携わることで独自の“売れるノウハウ”を構築。それを余すことなく著者に伝え、売上に妥協しない徹底的な姿勢から、強力な販促アドバイザーとして評価されている。
かつてはビジネス書の販促企画チームに所属しており、企業の代表など権威ある著者からの信頼も厚い。猫好き。
坂本 洋介
株式会社幻冬舎デザインプロ
代表取締役社長
フレグランスメーカーや広告業界にてアートディレクター・デザイナー職を経た後、書籍特有の信頼性に興味を持ち、幻冬舎メディアコンサルティングへ入社。「人の心を動かすデザイン」を信念に、書籍をはじめ、広告やWEB、プロダクトなど、幅広い領域のデザインを手がける。
編集長講評
山名 克弥 幻冬舎ルネッサンス新社
代表取締役社長
今回の「人」というテーマ、さまざまな解釈の作品があり、選考も非常に楽しませてもらいました。『海の賜物』は、震災における地元企業の混乱を描いた物語ですが、見方によっては慎二の成長物語とも読めます。前職で「首切り屋」とも称され、無慈悲にリストラを実行してきた男が、震災を機に人の温かさを知り、全員雇用継続を決断する。心境の変化の背後にあったのは、慎二が真っ先にリストラをしようとしたパートのおばさんたちのある行動でした。「人と人が関わり合い、成長していく」ということを限られた文字数の中で非常に丁寧に追っていたところに、本作の特筆すべきものがありました。
震災は私たちの生活を大きく変えました。慎二も悟も、失ったものの数を数えだしたらきりがありません。しかし、たとえ目に見えなくても、ほんのささいなものでも、たしかに得たものもあります。きっと慎二は会社の人々と協力して、復興の先まで駆け抜けていくでしょう。たしかな未来を予感させてくれる、読後感の良い物語でした。