従来のライトノベルでは、主人公がボスを倒す、何かを成し遂げるということを主題として、作品が成り立っているケースが多かった。その点において、筆者の着眼点は既存のライトノベルとは一線を画している。というのも本作は、主人公ルクスが魔物を倒す、旅をして成長していくといった描写には重きを置いておらず、勇者リディア、魔王セレナの各ヒロインがルクスを取り合うということだけに特化した展開となっているからだ。

このような創り方をしていては物語が単調になり、飽きがきてしまうことも懸念されるだろう。しかし本作においては、そのことをむしろ強みに変えている。もっぱらヒロインからルクスへの熱烈な好意が交互に描かれることで、ルクス視点から見た彼女たちへの評価は謎のまま伏せられている。こうした工夫があることで結末へと向かう高揚感が維持され、読者のページを捲る手を止めさせないよう配慮が行き届いている。

ライトノベルは特に自由な発想が求められる作品ジャンルだ。今回の審査では、そうした新奇的なアイデアが読みやすいタッチで描かれている点を、とりわけ高く評価した。