世間にはびこる孤独死への誤解を解くため、本を書くことを思いついたのです。
『孤独死ガイド』
現在、日本の年間死亡者数約125万人のうち、約3万人が孤独死を迎えているといわれており、2040年には年間20万人に到達するとも予想されています。
つまり、孤独死は今後、多くの人にとって、ますます「身近なもの」となっていくはずです。
しかし一方で、孤独死に対してはいまだに、「かわいそう」「みじめ」といったマイナスイメージばかりが喧伝され、「おひとりさま」たちの不安を増幅させています。
本書は、こんな現状に疑問を抱く現役医師が綴った、「もしかしたら自分も、孤独死するかもしれない」と思っている人のためのガイドブックです。
「人はどのようにして孤独死に至るのか」に関する医師ならではの詳しい解説や、後にトラブルの種を残さず、きれいに生きて死ぬために必要な心構えや準備、さらには著者が考える「孤独死支援ビジネス」のビジネスモデルなどが書かれており、本書を読めば、孤独死に対し、みなさんが漠然と抱いているネガティブなイメージが薄れ、「孤独死も怖くはない」と思えるようになるでしょう。
幻冬舎ルネッサンスから2017年に『孤独死ガイド』を出版した松田ゆたか氏に作品に対する想いを語っていただきました。
―本作品は孤独死をテーマとした作品となっていますが、松田さんが孤独死について考えるようになったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
「きっかけ」というほどクリアカットなものではないのですが、わたしが今の生き方を続けていれば、その果ては孤独死だとずいぶん前からごく自然に思っていたのです。わたしは仕事の時はともかくとして、プライベートな時間は一人で自分の思うように自由に生きています。一人暮らしの自由を満喫しているのだから、死ぬ時も一人だと覚悟しておくべきでしょう。ずっと一人暮らしの自由を満喫しておいて、「最期は誰かに看取ってほしい」というのは虫が良すぎると思いませんか?それに、そもそもわたしは一人で死ぬこと、つまり「孤独死」は決して悪いことではないと思っているんです。
ただ、世間を見渡すと孤独死は徹底的に忌み嫌われてますね。人生で最大・最悪の不幸であるかのように語られることが実に多い。それが不思議なんです。世間の人たちは、孤独死というものをきちんと考える前にイメージだけで嫌い、恐れているんじゃないかと。
こんな思いがあるものだから、これまでも個人的に語り合える範囲では、「孤独死を誤解しないでね」、「孤独死って、そんなに悪いものじゃないよ」と話をすることがあって、そうやってわたしがきちんと説明すれば、かなりの人が納得してくれたものです。
―その思いをより多くの人に伝えるために著書を世に問われたのだと思いますが、改めて、本作品をお書きになろうと思われた動機を教えていただけますか?
実は、その理由はわたしの仕事と密接に絡みます。医者は、人の死に立ち会う機会が多い。肉親や友人・知人の死ほどではないにしても、患者さんの死もやはり悲しいです。そんな経験をする中で、いつの頃からか、「わたしが死ぬ時は、人を悲しませないようにしたい」そう思うようになったのです。人を悲しませない死に方ってどんな死に方だろう、と考えていくうちに、「誰にも知られずひっそりと死ねば、誰も悲しませないで済む」と思い至ったわけです。
―本作品の冒頭に掲げられている孤独死八徳の一番目、「一人で死ねば、誰も悲しませずに済む」ですね。
そうなんです。
いま考えると奇妙ですが、最初は「わたしの最期は孤独死だ」という認識と、「人を悲しませないで死にたい」という願いは繫がっていなかったのです。それがある時、ふと思いついたんです。「誰にも知られずひっそりと死ぬというのは、孤独死そのものじゃないか」と。
それまでわたしにとって孤独死は、一人暮らしの帰結として受け入れるべきものだったのですが、この点に気付いてからは、より積極的な意義が見えてきたんです。人生の最後に、「誰も悲しませない」という功徳を施すことができるじゃないか。言い換えると、孤独死は単に「悪くないもの」だけではなくて、より積極的に「善い」こと、人のためになることなんだと気付いたのです。
この考えに至ってからは、世間にはびこる「孤独死へのマイナスイメージ」に対する違和感はますます強まり、「孤独死への誤解を解き、孤独死のプラス面を理解してもらうよう、自分自身がもう一歩踏み込んだ努力をすべきではないか」そんな想いが強くなり、本を書くことを思いついたのです。
―そうだったのですね。実際に執筆する中で、なにか気をつけていたことはありますか?
テーマがテーマだからこそ、あまり深刻にならず、ユーモアも交えて、かといって決して「軽い」ノリではなく……わたし自身がそういう心構えで肩の力を抜いて執筆し、読者もそんな気持ちでこのテーマに向き合えるような文章に仕上げようと心がけました。
それと、世間の常識に反することを主張するのだから、「説得力のある文章にしよう」と工夫しました。
常識には常識なりの根拠があるわけで、なぜこれほど孤独死が忌み嫌われるのか、その理由をまず探りました。すると、どうやら一人で死ぬことそのものではなくて、「死体の発見が遅れること」、死んでから何日も、場合によっては何週間も放置されることが、恐怖と嫌悪の原因らしいと分かったのです。それなら、死んだらすぐに発見してもらえる対策を講じておけば、「一人で死ぬことそのものは恐れる必要がない」と説得できる。この見通しを得て、突破口が開けた感じでしたね。
―たしかに、そのようにきちんと説明されると安心する人も多いでしょうね。特に、孤独死を「自分に起こり得ること」として痛感している一人暮らしの高齢者は安心するのではないでしょうか。
それを、期待しています。
―やはり、そういう一人暮らしの高齢者を主なターゲットにして執筆されたのですか?
それが、実は必ずしもそうではないんです。
もちろん一人暮らしの高齢者こそ、一番切実に孤独死への不安を抱えているでしょうから、その人たちに読んでもらって、少しでも不安を軽減してほしいとは願っています。
ただ、それだけでなく、もっと若い人たち、40代とか30代、あるいは20代くらいの一人暮らしの人たちも、「このままだと最期は孤独死か」という漠然とした不安を抱えていることはあるんですね。その不安から逃れるために、とりたてて結婚生活が魅力的とは思えないけど、「孤独死を避けるために婚活する」などという、わたしから見ると逆立ちした発想もあるようです。そんな人たちに孤独死も悪いものではないと語りかけて、安心させてあげたいですね。一人暮らしが好きなら、そのまま一人暮らしを続けていてかまわないよ、と。
もちろん一人暮らしが好きというのは今の社会でも少数派であって、多くの人はできれば素敵なパートナーを見つけて結婚して、幸せな家庭を築きたいと願っているでしょう。その人たちにとっては孤独死なんて縁のない話だと思われるかもしれません。でも、実は婚活に励んでいる人たちにとっても、孤独死はまったく無縁なわけではないし、この本は役に立つのです。
―急にセールストークっぽくなりましたね(笑)。なぜ、婚活中の人たちにも本作品が有益なのでしょうか?
セールストークというわけではないのですが(笑)……つまり、こういうことです。
結婚したいと願っている人たちにとって、結婚できないまま年を重ねて孤独死するのは、言うなれば「最悪の事態」ですね。でもその最悪の事態であっても「なんだ、この程度か」、こう見切りを付けられるなら、気持ちに余裕が生まれるでしょう。孤独死もそんなに悪いことではないのなら、孤独死を避けるために焦って結婚を決めなくてもいい(ほんとうに「この人なら」と思える人に出会えるまで、じっくり待っていてもいい)という余裕が生まれるのです。結果として、こんな余裕を持ってパートナー探し、パートナー選びができる人の方が、理想の相手と一緒になれるのではないでしょうか。
人生、何事においても余裕はだいじです。焦ってろくなことはありません。婚活も同じだと思いますよ。
―身につまされます(笑)。
おや、急所を突くアドバイスだったかな……まあそれはともかく、セールストークをもうちょっと続けると、婚活は言うなれば「結婚以前」のことだけど、「結婚以後」にも孤独死は関係するんですよ。
ちょっと考えれば分かるけど、どんなに仲の良い夫婦でも、「二人同時に死ぬ」ことはほとんどあり得ないでしょう。どちらかが先に死に、残された側はそれから数年、場合によっては十数年、一人暮らしを続けることになります。その帰結が孤独死と言うこともあり得るわけです。
可能性は男女で半々……ではなくて、女性の方が高いですね。夫婦で妻の方が年下のことが多いし、女性の方が平均寿命が長いから、妻が夫を看取って、一人暮らしをする確率の方が、その逆よりずっと高いはずです。
―ああ、そこまでは考えていませんでした。
まあ若い人にとって、自分の死を実感を込めて想像するのは難しいかもしれませんね。でも、たまにはこんなこともきちんと考えてみる方が良いですよ。
―ありがとうございます……何だか、インタビューじゃなくてカウンセリングみたいですね。
職業柄、ついそんな話し方になってしまいますね。以後、気をつけます(笑)。
―これまで語っていただいたような動機をもって、幅広い読者を想定して執筆に取りかかられたとのことですが、実際に執筆を進める中で、改めて気付いたこと、または新たに発見したことなどもありましたか?
細かなことまで数え上げればたくさんあるのですが、とりわけ印象的だったのは、死や葬儀に係わる本や資料をいろいろ読み込む中で出会った一遍上人の遺言ですね。本作品にも引用していますが、
「(死骸は)野に捨て、獣にほどこすべし」
という、あの遺言です。わたしもシンプルライフの結末としての「シンプルデス」を主張しているのですが、これぞ究極のシンプルデスというか、人があらゆる虚飾を捨て去って自然の食物連鎖に還っていく、そんな死に方だと思いました。
それと、これは安楽死についての情報を得るために読んだ本ですが、『終末期医療を考えるために -検証オランダの安楽死から-』(盛永 審一郎、丸善出版)。この本によれば、安楽死が合法化されているオランダでも、実際に安楽死する人はごく少数です。ただ、安楽死という選択肢があるおかげで、「いざとなればこうやって安楽に死ねる」という安心感を抱いて終末期を心穏やかに過ごし、結果として安楽死ではない平穏な自然死を遂げる人たちがたくさんいる、というような記述があります。
孤独死についても似たようなことが言えると思いました。孤独死にまつわる不安や恐怖をなくすことで、「いざとなれば孤独死でも悪くない」という安心感を抱いて終末期を心穏やかに過ごすことができるでしょう。結果として孤独死ではなく、家族や知人友人に見守られての死であっても、そこに至るまでの日々を余計な不安や恐怖から解放されるということは、意味のあることだと思います。
―確かに本作品は孤独死が中心テーマですが、それを越えて、「死」そのものについて考えるきっかけにもなりますね。
まさに、それがわたしの期待するところです。
さらに言えば(これこそ執筆する中ではっきり認識したことなのですが)、孤独死であれ、家族や知人に見守られての死であれ、「幸せな死」とは、死ぬ間際に一生を振り返ったとき、「自分なりによく生きたな」、と納得できる死ですよね。たとえ大勢の家族や知人に見守られながら死んでいくとしても、本人が心の中で自分の人生を後悔しているなら、それは決して幸せな死ではないはずです。だとしたら、「幸せな孤独死」は、納得できる一人暮らしの帰結として得られるものです。死に方は、「生き方の決着」というわけです。
―それが、本作品の6章、7章のテーマになるのですね。
そうです。1章から5章にかけて書いたことは、執筆のかなり前から思っていて、周りの人たちにも折に触れて語ることがあったのですが、6~7章に書いたことは、まさに執筆しながら認識を深めていったことですね。「孤独死も悪くないよ」という主張は、「一人暮らしも悪くないよ」という主張とセットになっていて、説得力を得るということ。あるいは、この点から逆にさかのぼると、孤独死を全否定するような世間の風潮にわたしが違和感を覚えるのは、その前提としての「一人暮らし」そのものを、わたしは決して不幸な生き方だと思っていないからなんだ、と書きながら気づいたのです。
―そんなさまざまな思いを込めた本作品のタイトルとして『孤独死ガイド』を選ばれたのは、どうしてなのでしょうか?わりとシンプルなタイトルですね。
シンプルなのが好きなんです。著書の中でシンプルライフやシンプルデスを語っているのに、そのタイトルがけばけばしいのは自己矛盾でしょう。
押しつけがましいタイトルや人目を引く仰々しいタイトルは好きじゃないんです。出版社としては売り上げのことを考えて、ぱっと人目を引くタイトルにしてほしかったのでしょうが。
―いえいえ、そんなことはありません。作品に合った、とても素敵なタイトルだと思います。
それはありがとうございます。
「ガイド」という言葉について講釈するなら、何よりもまず、死に方についての具体的な情報提供とアドバイスを心がけたいと思ったからです。せっかく医者が書くのだから、死に至る病気についての説明とか、終末期医療に関するリヴィングウィルとか、死んだ後の死亡診断書や死体検案書についての情報なども盛り込むことにしました。
ただ、それだけではなくて、医者という立場を離れて、一人の人間としても、より良い死に方を考えている人たちを手助けできるような情報や、わたしの意見も盛り込んでいます。
先ほどの話と関連しますが、「良い死に方」は「良い生き方」を前提にするはずだから、生き方、とりわけ人生の黄昏時の生き方についても、ガイドというか、「こうするといいかも」という意見を盛り込みました。
―それで、サブタイトルが「一人で生きて死ぬまで」となるわけですね。
そうです。
―そうやってできあがった原稿を弊社でお預かりして、制作作業を進めさせていただいたわけですが、このプロセスで何か印象深かったことなどはありますか?
やはり一番印象深かったのは、デザイナーさんが読んで感激してくれたことですね。
ワード文書としてベタで入力した原稿を、ページ振りや見出しの構成などで見栄えの良い本に仕上げてもらうのですが、その仕事を担当なさったデザイナーさんが、ちょうどわたしと同年配で、原稿を読みながら感激して、ふだん以上に気合いを入れて作業を進めているというお話を聞き、著者冥利に尽きると思いましたよ。
表紙カバーのデザインにも細かな配慮を払ってくれましたし。
―そうです。この表紙カバーのデザインは、わたしたちも自信を持っています。さて、本ができあがって読者の手に渡って、反響はいかがでしたか?
身近な人たちにできあがった本をあげると、ほとんどみな
「きれいな本ですね」
というのが第一声でした。
―ああ、それはとてもうれしい。
内容を読んでの感想は、人それぞれです。その人ごとに関心領域が違っていて、それぞれ別のテーマについて感想を聞かせてくれました。
たとえば、終末期医療や介護について思いの丈を述べる人もいました。
「足るを知る」シンプルライフについて、「どうすればそんな生き方ができるようになるのか、その方法を具体的に書いてほしい」と切実な要望も寄せられたのですが、それに答えるには別に1冊の本を書かないといけないから、と言ってご容赦お願いしました。
「孤独死八徳」について、「そんな発想もあるんですね」と素直に感心してくれた人もいましたし。
―ほんとうに人それぞれですね。
ただ、たいていの人が、9章に叙述した父と母の老いと死については、それぞれに感想を語ってくれました。
自分の死についてはまだ実感が湧かなくても、親の介護や看取りについては実感を持って想像できるのかもしれませんね。
―それは、分かります。では、最後に締めくくりのメッセージをお願いします。
だいたい言いたいことは言い尽くしているのですが、あらためて語るなら、「孤独死」について、根拠薄弱な不安や恐怖にからめ取られないで、事実をありのままに見てほしいですね。そして、自分のこととして考えてほしい。お一人様だけでなく、「お二人様」であっても、伴侶が自分より先に逝けば、お一人様の終末を迎えることになるのだから、孤独死は誰にとっても人ごとではないのです。
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