前回に続き、天野節子さんのデビューまでの軌跡を辿ります。
しかしそんな紆余曲折を経たからこそ、3度目の出会いである幻冬舎ルネッサンスへと、バトンは手渡されていくことになる。
頓挫から一転、刊行へと橋渡しの役を果たしたのは、当初からの編集者・K。
会社が倒産した後、すぐに幻冬舎ルネッサンスに入社、編集局長に就いていた。
その編集Kが言う。
「『氷の華』が埋もれてしまうことに、その作品の出来栄えからしてもったいなさを感じ、幻冬舎ルネッサンスで出版することに、私が注力したことは事実です。
誠実にやっていれば山は動く、率直にそう思います」
幻冬舎ルネッサンスでは、自費出版を“個人出版”と呼ぶ。
著者の自費をもって本を刊行する仕組みは他社と変わりないが、“幻冬舎”の現役編集者らが、直接に本づくりのアドバイスをするのが“個人出版”たる所以だ。
目指すのは、クオリティの面で商業出版になんら遜色のない自費出版。『氷の華』もまた、幻冬舎ルネッサンスの編集者によって原稿が見直され、最高の装丁が施されて、'06年9月、1000部が各地の書店に搬入された。
自著が書棚に並ぶ書店で、天野節子はしばし至福の時間を過ごしたという。
「カバーデザインも最高に気に入りましたし、本当に素敵に仕上げていただいて、感無量でした。書店に置かれた自分の本の近くで、しばらく立っていましたよ。そのときは売れませんでしたけれど」
しかし、本人の知らないところでは、確実に売れていたのである。
発売から1ヶ月もすると、書店で購入して読んだという映像関係者から、電話での問い合わせが相次いだ。
「ドラマ化させていただけませんか?」
「映像化はもう決まっているのでしょうか?」
幻冬舎ルネッサンスの創立以来、これほど速い反響が返ってきたことはなかった。
社内の士気がぐんと上がった。
その社内に、『氷の華』を手にしきりに唸る男がいた。
半年前にルネッサンスの社長となったKだ。
「ここまでクオリティの高い作品が、うちから出ていたとは」
幻冬舎の創立メンバーのひとりでもある社長Kが惹かれたのは、まず簡潔な筆致だ。
また物語展開、エンターテインメント性、いずれの面でも群を抜いている。
「この時期にこの作品に巡り会えた自分は、なんて幸運なんだ」
血が騒ぐ思いがした。
とにかく多方面から、いろいろな意見が聞きたい思いに駆られた。
同業者、映像関係者、職種によらず本の目利きの知人たち。
せっせと送りつけたが、誰からも「処女作とは思えない」「素晴らしい」といった答えが返ってくる。
そこで、社長は幻冬舎の営業部に持ち込んで言った。
「これを読んでみてくれないか」
書店営業の第一線を歩く、若い社員らの反応も知りたかったのだ。
営業第一部・Sは、そもそも幻冬舎が自費出版に乗り出したことに懐疑的だったが……。
「私は正直言って自費出版に対して偏見を持っていました。しかし、この『氷の華』は1行目から引き込まれ、こんなすごい表現者がまだいるんだと驚きました。うちのグループで自費出版の会社を立ち上げたことに、いまさらながら合点がいくほど、力のある作品でした」
営業第二部・Aも、一転して絶賛に回ったひとりだ。
「いくら小玉が“いい”と言っても半信半疑のところがあったんですが、実際に読んでみると“一気読み”とはこのことかと思うほど。ちょうど近県への出張があって持っていったのですが、移動中ずっと読んでいました。一作目でこんなものが書けてしまうのかというほど無駄がない。文章的なうまさはズバ抜けていましたね」
営業課長代理・Iは「かなり面白い」と感想を抱いたものの、作家の知名度に不安を抱いていた。
「まったく名前が浸透していない作家の本を印象づけるのに、どうやって書店に展開したらいいのかと考えると、ちょっと難しいのかなというのはありました。そこで、書店さんに本を読んでもらうことにしたんです」
しばらくして書店員から送られてきたメールには、こんな1行が記されていた。
~面白かったです、土曜ワイド劇場みたいに~
推理小説は映像化したときのキャスティングを想像しながら読む、という営業課長代理・Iにはこのメールが最大の賛辞にも思えた。
営業部員の間を駆け巡った評判は、やがて幻冬舎社長の見城徹の耳にも入り、さっそく幻冬舎編集部・Kが呼ばれた。
「とてもプロットがしっかりした、いい小説だと思いました。いくつかの点を直せば相当の作品になると確信を持ちました」
幻冬舎ルネッサンスから幻冬舎へ、劇的な決断が下されていた。かくして'07年3月、『氷の華』は、新たな形で店頭に並ぶことになった。
あの失意の誕生日から1年が経っていた。
いま、カバーデザインも一新された自著を手にしながら、天野節子は改めて感無量の面持ちだ。
「君和田さんともう一度、徹底的な原稿の直しをやりました。こんなにもきちんと読んでいただいて本当に感謝しています。“幻冬舎ルネッサンス”そして幻冬舎、思いがけず生まれ変わることができたこの本は、本当に幸せ者だと思います」
原稿に惚れ込み心血を注いだのは編集部・Kだけではない、数多くの読み手の感動が『氷の華』を上へ上へと押し上げた結果だった。
それだけに値する著者の力量が、そして作品の生命力が光っていた。
もしかすると今後も、映像化など新しい展開が拓かれるかもしれない。また数年後には、幻冬舎文庫として書店の棚に置かれ、末永く残っていくことになるだろう。
もしミリオンセラーになったら、プロ作家への転向も考えますか?
そう訊くと、天野節子の張りのある声が返ってきた。
「いいえ、また書いてお金を貯めて、幻冬舎ルネッサンスに出していただきます。私にとって書くことは夢。自由を楽しめる“個人出版”がいいわ」
本を書いて人生は変わったけれど、自分は変わらない……。
そう告げるかのように、文壇に躍り出た“団塊”のニューヒロインは微笑んだ。
幻冬舎ルネッサンス新社では、本を作る楽しみを自費出版という形でお手伝いしております。
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