表現者の肖像 村松紀梨湖
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 これは私の父との写真です。

 私は「健康で長生きをしたい」という気持ちがありましたから、余命三カ月と言われても驚かなかったと言えば嘘になります。最初に死を意識したのは小学校5年生のころでした。家業に深刻な問題があり、母に「一緒に死のう」と言われたのです。父は戦後、友人と畳会社を興して社長となりましたが、資金面で窮地に追い込まれ、ストレスからお酒を浴びるように飲むようになってしまいました。そんなとき、母からいきなり「死」というものを突き付けられ、幼心にその怖ろしさを悟った出来事でした。このとき意識した「死への恐怖」によって、「一度きりの人生だから、後悔のないように生きたい」という信条で精いっぱい生きてこられた気がします。私が中学に上がるころには、父の仕事は再度軌道に乗りました。子どもに死を持ちかけた当時の父母のつらさを思うと、心がしめつけられる思いですが、困難にもくじけずに、四人の子どもを育ててくれたことには感謝しかありません。父が私たちに言っていたことは「勉強しなさい」ではなく、「真っ正直に生きなさい」でした。父からは自分の信念を貫くことの大切さを教わりましたので、たとえ期待外れだったとしても、自分が信じた道を歩みたいと思っています。これはがん患者になったとしても同じです。生きているものは、いつも死と背中合わせにある。だから充実した生を送りたいと、その思いを強くする毎日です。

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